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社会課題を解決する商品の提供

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 当社グループの商品・サービス提供に当たっては、目まぐるしく変化する社会の中で、従来の社会課題にとどまらず、新たに発生する課題、あるいは潜在的な課題を探索し、解決し続けることで、多くのステークホルダーの期待と信頼に応えていきます。


取り組みの考え方

 「東京計器ビジョン2030」の中では、2030年の予測される社会から5つの事業強化領域を定義し、現有事業および保有技術との関係性を確認しました。そのうえで、当社グループが新しく挑戦していく事業の候補を「成長ドライバー候補」、既存事業の成長については「既存事業の深化ポイント」としてまとめ、課題に取り組んでいます。

推進体制

 「既存事業の深化ポイント」については各カンパニーが、「成長ドライバー候補」については社長室が中心となり推進しています。推進を強化するため、2023年4月には社長室内に新規事業推進室が発足しました。今後、既存事業の戦略と成長ドライバーの進捗を次期中期事業計画へ反映させていきます。

成長ドライバー候補の取り組み

 2021年度から2023年度までを新たな成長ドライバーの発掘・絞り込み・育成の期間とし、5つの候補について以下の取り組みを進めています。

  • エッジAI事業
  •  エッジAI向けプロセッサーでAIを最適動作させるためのツールを開発し、ユーザーに試験提供を開始しました。また、ホームページ上で開発パートナーを募集する取り組みも開始しました。

    ※エッジAI:人工知能(AI)は大量のデータを高速学習するため、AI本体はデータセンターのサーバー等にあり、端末(エッジデバイス)とはインターネットを介して通信するのが一般的だが、エッジAIは演算処理をインターネットを介さず現場で処理できるのが特長。通信環境が制限される農業分野や土木建設分野等の場合は端末内でリアルタイム処理する必要があり、エッジAI技術の活用が期待される。エッジAI処理を高速化できるAIチップを供給している企業は世界で数社しかなく、当社では他社とは異なるアプリケーション向けのAIチップの提供を目指す。

  • 水素・エネルギー事業
  •  既存事業で対応してきた水素圧縮装置だけでなく、業務提携先と水素ステーションの小型化・パッケージ化に取り組んでいます。また、国立研究開発法人産業技術総合研究所との水素製造装置の共同研究開発を開始しました。

  • 宇宙事業
  •  既存事業における小型SAR衛星※向けマイクロ波増幅器の納入を足掛かりに、株式会社Synspectiveと小型SAR衛星の量産化に向けたパートナーシップを締結し、衛星組立のための宇宙棟を那須工場内に建設しました。

    ※小型SAR衛星:SAR=合成開口レーダー(SAR:Synthetic Aperture Radar)。SAR衛星は移動しながら地表に向けてマイクロ波を照射し、その反射波を画像解析することで地表の状態を把握する衛星。地表観測に用いられる光学カメラ衛星の場合、雲で覆われている地域や夜間は撮像できないが、マイクロ波を使用するSARは天候や昼夜を問わず観測ができるため、災害の把握や防災、インフラ開発の情報収集などへの活用が期待されている。今回のSAR衛星は、通常の10分の1の100kg級の小型ながら大型衛星並みの高精細・広範囲の画像取得が可能であり、この性能の実現には当社のマイクロ波増幅器が衛星の心臓部として大きく貢献している。

  • 鉄道事業
  •  これまで徒歩による巡回作業だけで行っていた鉄道の軌道監視を自動判定することにより省人化を目指した軌道検査省力化システムを開発しました。

  • ライフサイエンス
  •  マイクロ波、プラズマ応用技術の医療・衛生分野での貢献を目指し、大学や外部の研究開発機関などとの研究および調査を進めています。

既存事業の取り組み

  • 船舶港湾機器事業
  •  公益財団法人日本財団が推進する無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」の社会実装に向けた第2ステージに、第1ステージに引き続き参加しています。その他にも、「安全・省エネ・省人・環境対応」の社会課題を解決する商品の開発に、他社との共同開発も含めて取り組んでいます。

  • 油空圧機器事業
  •  「脱炭素社会」の実現に貢献する水素ステーション向けの水素圧縮装置の提供や、省電力・ハイブリッド油圧機器の開発に取り組んでいます。

  • 流体機器事業
  •  社会の安全に貢献する防災市場向け水位システムおよび消火設備を提供しています。

  • 防衛・通信機器事業
  •  農業の効率化に貢献する農業機械用自動化関連機器の開発や、半導体製造装置用マイクロ波増幅器の提供を通じ、ICTニーズに応えています。また、海上交通の安全に貢献する海域監視用半導体レーダーを提供しています。
     その他にも、防衛市場向け製品の開発・製造、維持・修理を通じ、急激に高まっている安全保障のニーズに応えています。

研究開発の取り組み

研究開発の考え方

 当社グループの製品は、船舶、航空・宇宙、産業機械、農業・建設機械、社会インフラなど世界中のさまざまな分野で活躍しています。このような製品を供給するメーカーとして、研究開発は当社グループの経営の根幹であると認識しています。
 当社グループの研究開発の基本方針は、経営理念である「計測、認識、制御といった人間の感覚の働きをエレクトロニクスをはじめとする先端技術で商品化していく事業を核として、社会に貢献する」に立脚し、研究所機能である「研究開発センタ」の技術戦略および研究開発計画、カンパニー・子会社の製品開発に展開されています。

研究開発の体制

 研究開発センタは、比較的中長期の研究開発を行うことが主体となっており、その成果を活かした製品開発を各カンパニー・子会社の開発部署が行うことを基本としています。また、各カンパニー・子会社単独では非効率な研究開発の委託研究や、個別案件での技術支援を担っています。同センタが将来の事業機会を捉え、事業の核となる技術の研究開発活動を行っている一方で、各カンパニー・子会社は、お客様のニーズをもとに、数年先に製品化する商品の先行開発を含めた開発活動を行います。

開発委員会

 開発委員会は、技術担当役員が委員長を務める会議体で、研究開発センタ長、各カンパニーの技術部長等で構成されています。開発委員会は、当社グループの技術戦略立案や技術戦略実行に関するさまざまな事項を決定し、必要に応じて委員長が経営会議へ提案または報告します。

オープンイノベーション

 当社グループは、産官学との共同研究や、企業間の連携を推進するオープンイノベーションに積極的に取り組んでいます。最近の事例を紹介します。

  • 無人運航船技術の2025年の本格的な実用化を目指す

  •  当社は公益財団法人日本財団(日本財団)が推進する無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」における「無人運航船の社会実装に向けた技術開発プログラム」(注1)に、当社を含め国内51社で構成されるDesigning the Future of Fully Autonomous Ships Plus コンソーシアム(DFFAS+)のメンバーとして参加しています。
     当該プログラムは、2020年からスタートした「MEGURI2040」の第2ステージとして位置づけられ、第1ステージとして実施された「無人運航船の実証実験にかかる技術開発共同プログラム」で培った無人運航船技術の2025年の本格的な実用化を、日本財団と共に目指します。当該プログラムでは、「実証実験」「開発した技術の規格化」「開発プロセス基盤の強化」「社会実装」という4つの目標を掲げて取り組みます。
     当社は、「MEGURI2040」第1ステージにDFFAS+の前身となるDFFASコンソーシアムとして参加していました。「MEGURI2040」第2ステージにも引き続き参加し、さらに技術の規格化においてワーキンググループリーダーを務めます。
     実証実験においては、将来の内航業界を支える次世代船を設計するとともに、無人運航船が支える将来の内航業界を想定した船陸オペレーション実証を、異なる4隻の船舶(注2)および2つの陸上支援センターを利用して実施します。当社は、無人運航機能をすべて備えたFull Packageの新造コンテナ船に対して、オートパイロットやジャイロコンパスなどの製品に加え、これらの研究開発で培った舵制御技術を提供します。離岸から着岸までのすべての航路と避航操船において適切な位置制御を実現し、安全な無人運航に貢献します。
     当社は、日本の内航業界における労働力不足解消や労務負担軽減、海難事故防止、離島航路維持等の社会的課題を解決し、安定的な国内物流・輸送インフラを支えるため、日本財団、DFFAS+参加各社、国内外の協力組織と共に、2025年の無人運航船の実用化に向け、「MEGURI2040」に取り組んでいきます。

    実証実験のイメージ(無断複製・転用禁止)


    (注1) 無人運航船の社会実装に向けた技術開発プログラム:無人運航船の実用化を推進する技術開発を行うことで、本分野の技術開発へのさらなる機運を醸成し、その結果我が国の物流および経済・社会基盤の変革を促進するべく、当該技術開発を支援する助成制度。
    (注2) 異なる4隻の船舶:船舶無人運航機能をすべて備えたFull Packageの新造コンテナ船、無人運航機能の一部を備えた既存コンテナ船、既存RORO貨物船、既存離島航路船。



  • ギ酸からの高圧水素製造装置の小型化
 当社および子会社の東京計器パワーシステム株式会社(TPS)は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)と「ギ酸(注)からの高圧水素製造装置の小型・実用化モデルに関する共同研究開発」を開始しました。
 油圧システムの開発・生産を行うTPSでは、油圧制御技術を応用して都市部を中心とした水素ステーション向けに水素圧縮装置を提供しています。一方、水素ステーションをはじめとした水素の供給網が不十分な地方や、比較的小規模な水素利用を想定した、現場で利用できる小型・低コストの水素供給システムについても検討を重ねてきました。
 本研究開発では、ギ酸からの高圧水素製造装置に関する小型・実用化モデルの研究開発を行います。産総研ではこれまで、ギ酸からの高圧水素製造技術と社会実装に向けた研究を進めてきました。水素を大量に貯蔵・輸送するためには圧縮(高圧化)が必要であり、多くの水素生成方式においては、大気圧と同等の圧力で得られた水素を圧縮装置によって高圧化しています。ところが、ギ酸を用いた水素製造においては、高圧水素が直接得られることから、圧縮工程を省略でき、高圧水素製造における装置の小型化と低コスト化が期待できます。
 当社グループは、「東京計器ビジョン2030」における成長ドライバーの一つとして、水素・エネルギー事業の推進を図っており、本研究開発を通じて水素エネルギーのさらなる普及に取り組んでいきます。

産総研が技術実証に用いたギ酸による水素製造装置(写真:産総研提供)

(注) ギ酸:産業用途では家畜飼料の防腐剤や皮なめし剤、凍結防止剤などに広く利用される化学物質。水素の貯蔵や輸送には多くのエネルギーを要するため、別の物質に変換して効率よく貯蔵・輸送するための水素キャリアの研究や開発が進められており、産総研では以前より水素の新たなエネルギーキャリアとして注目している。

軌道検査省力化システムの実現に向けて
-東京計器レールテクノ株式会社の新たなる技術領域への挑戦-

軌道検査の現状

 世界に比類のない高い安全性と正確性を誇る日本の鉄道。その線路は現在も多くの点検作業員によって守られています。線路には多くの軌道材料(部材)が使われており、列車を安全に走行させるためにはこれら軌道材料が健全な状態であり続けることが重要です。点検や補修作業などは電車の運行が終了した深夜から始発電車が走る早朝にかけて行っていますが、日中に徒歩で線路の状態を監視する必要のある「徒歩巡回(目視点検)」は、列車と接触する可能性を伴う非常に危険な作業です。徒歩巡回では、軌道材料の状態を作業員が歩きながら検査するため、高度な技能を持った人材の確保が重要課題となっているほか、作業者の責任も重く、心理的な負担が大きい業務です。そうした過酷な労働環境であることも一つの要因となって、近年はその担い手が減少しており、鉄道事業者は安全で持続可能な鉄道を維持するうえで深刻な状況に直面しています。このような社会課題の解決に向けて、近年は検査機器が搭載された車両での測定作業が強く求められるようになっています。
 東京計器レールテクノ(TRT)の「軌道検査省力化システム」は、危険を伴う徒歩巡回から作業員を解放するだけではなく、点検、検査の頻度の向上が可能になることで、高頻度データを各種設備の劣化予測に応用するなど、線路保守における生産性向上を実現することが期待されています。

軌道検査省力化システムの特長

 TRTは、国内鉄道会社の超音波レール探傷車*1市場で7割以上採用されている実績を踏まえ、複数の軌道材料の検査を行う「軌道検査省力化システム」を開発しました。これは、営業車両や保守用車両に搭載して軌道材料の状態を自動で判定できるもので、歩行による巡回に比べてより効率的に、さらに安全で正確な軌道材料監視が可能なシステムです。
 このシステムでは、複数の画像センサ-を車両の床下に配置してさまざまな角度から軌道の連続撮影を行い、撮影した画像から軌道材料を個別に抽出し、脱落や欠落、不良判定や異常検出までをAIにより自動判定することができます。
 また、営業車両に搭載して高頻度に測定を行うことは、従来型の補修計画作成方式であるTBM*2からCBM*3への切り替えも可能となり、補修作業が必要な時期を正確に算出できるようになるため、人的および金銭的なコストの削減につながります。
 TRTと東京計器油圧制御システムカンパニーにおける研究開発では、車両の床下に搭載する撮影装置を自社開発し、画像処理プロセッサ-は東京計器製を採用しました。さらに、画像処理アルゴリズムの開発からソフトウェア製作に至るまでの全行程を東京計器グループ内で管理することにより、迅速できめ細かなサポートを可能としています。

*1 超音波レール探傷車:目視検査では見つけられないレール内部の傷を超音波で検知する装置を搭載した、非破壊検査を行う車両。
*2 TBM:Time Based Maintenance =時間基準保全。あらかじめ設定した時間・周期に基づいて、設備や機械の状態のよしあしにかかわらず、定期的にメンテナンスを実施する保全方式。
*3 CBM:Condition Based Maintenance =状態基準保全。IoT・AIなどの技術を活用し、設備の劣化・故障などを監視して予測することで、故障・不具合が発生する前に適切な修理・部品交換を可能とする保全方式。

軌道検査省力化システムが搭載された九州旅客鉄道株式会社(JR九州)の多機能検測車        軌道検査省力化システム


解析のイメージ



部材検出例

まくら木の自動判定                          まくら木の直角度判定

継ぎ目板のボルト判定                     底部腐食                 遊間量測定