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Views No.128【簡易版】 欧州有数の主要港をより安全に

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欧州の貿易や交通に利用され、古くから輸送路の要衝であるスヘルデ川。オランダにあるこの河口を少し上ると、世界有数の国際貨物取扱量を誇るベルギーのアントワープ港に繋がります。欧州は運河が重要なライフラインであるため、スヘルデ川を含む3つの川が交錯しているアントワープ港の周辺海域は常に数多くの船舶で混雑しています。このような輻輳(ふくそう)海域での安全性と航行の効率を高めるため、スヘルデ川の河口域にはオランダ政府とベルギー政府が共同で運営するVTSスヘルデ(正式名称:Schelderadarketen)※1という航行管制を行う組織が存在します。

VTSレーダーの海外販売に注力してきた東京計器は、VTSスヘルデにおける航行管制の更なる効率化と安全性を向上させたいというニーズに着目し、高精度のVTSレーダー「SeaKu 」※2を提案。スヘルデ川河口に位置する人工島「ニールチェ・ヤンス」へ、当社初となるVTSレーダーの海外納入を実現しました。VTSレーダーとは、マイクロ波で船舶の位置や移動方向を捉えるレーダーです。管制官がレーダーで捉えた船影を、航行中の船に無線で情報を提供することで、海難事故防止や、航行の効率化に役立てられます。本特集ではスヘルデ川水域の航行管制で活躍する東京計器の高精度VTSレーダー装置をご紹介させていただきます。


  • ※1VTS(Vessel Traffic Services:船舶通航支援等業務)。VTSスヘルデはオランダ政府のRijkswaterstaatとベルギー政府のFlemish Agency for Maritime and Coastal Services が共同で運営するVTS 組織。
  • ※2 商品名。VTS向けKu帯固体化レーダー装置。

東京計器製レーダーは何が違うのか。

VTSレーダーは海上交通システムの目に相当するセンサであり、昼夜、天候状況を問わず24時間365日船舶の動きを捉える重要な役割を担っています。その原理はマイクロ波のビームをアンテナから送信し、そのマイクロ波が船舶などの目標に反射して同じアンテナで受信することで目標を捕捉するというもの。こうしたレーダーで得られた位置情報や電子海図、気象海象情報などをもとに管制官は船舶に対して適切な情報提供を行い、衝突防止、座礁などの海難事故防止や船舶航行の効率化に努めています。
欧州のVTS 機関はレーダーで用いるマイクロ波にXバンド(8~12GHz)と呼ばれる周波数帯域を多く採用しています。一方、今回採用いただいた当社のレーダーはKuバンド(12~18GHz)と呼ばれるさらに高い周波数になります。レーダーには「分解能」という性能があり、モノを測定・識別する能力の細かさを示します。この分解能はマイクロ波の周波数とアンテナの大きさに比例するため、周波数を高く、アンテナを大きくするほど性能が向上します。しかしアンテナは常に回転させる必要があることや屋外に設置することを踏まえると、大きさには物理的な限界があります。そのため、XバンドではなくKuバンドの周波数を採用することで分解能を向上させました。

アンテナから送信されるレーダーの信号には幅があり、この幅がレーダーの映像の1つのセルにあたります。つまり、この幅の中に船が2隻入ってしまうと、レーダーは2隻と捉えることができず、1つの船影として表示してしまいます。この幅の狭さが「方位分解能」という性能差となります。
この幅はビーム幅と言い、周波数が高いほど角度が狭くなるので、上の図のようにXバンドでは1つの船影になってしまったものが、Kuバンドでは2隻として捉えることができます。また、当社のVTSレーダーはマイクロ波発振装置の増幅器に半導体を使っていることもポイントです。VTSレーダーにはマグネトロンという電子レンジと同じ仕組みでマイクロ波を発振するものが多いのですが、遠距離の探知に向いているのは半導体で作られた増幅器。マグネトロンに比べて、より遠く離れた距離にある船や同じ距離でより小さな船を捉えられる確率が向上しました。またKuバンドはXバンドに比べて雨に弱いというデメリットがありますが、半導体の増幅器による性能向上により、Kuバンドのデメリットを補完することができます。

日本からオランダ、そして世界中の港へ向けて。

2021年12月、海外の仕様に合わせた評価試験や試運転などが完了し、設置工事が行われました。レーダーアンテナの全長は約9メートルにも及び、マイクロ波が広範囲に届くよう、120mもの高さがあるタワーの最上部に設置。設置工事当日はやや悪天候ではありましたが、当社からも営業・技術者ともに足を運び、現地の作業員とともに工事を完了することができました。東京計器のVT Sレーダーは既設のVT Sシステムとの整合や、別のエリアに設置されているXバンドのVTSレーダーとの見え方の違いといった細かな調整を行いながら本格稼働を開始しました。お客様が求められた約40k m 沿岸にある錨地(びょうち)※3での分解能の性能要求を上回る結果を出したことから、VTSスヘルデからも高い評価をいただいています。
欧州では河川を利用した内陸水路輸送が重要な役割を果たしており、37,000 k m 以上の水路が数百の都市と工業地帯を繋いでいます。今後、スヘルデ河口での実績を基に、欧州の港湾及び河川における船舶交通管制市場に向け、VTSレーダー装置の販路拡大を進めてまいります。

東京湾海上交通センターに納入された当社のレーダー装置、及び管制支援システム製品はViews126号でご紹介しております。是非ご覧ください。

※3 錨を降ろして停泊する場所。港に入る前に大型船が待機する場所となっている

Views No.128 PDF版(約6.2MB)

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