サステナビリティ方針
東京計器グループは、計測、認識、制御の独創技術により、社会からの信頼を得ながら、
「持続可能な社会の実現」と「中長期的な企業価値の向上」を目指します。
1.顧客や社会の潜在ニーズを掘り起こし、事業活動を通じて課題を解決し続けます。
2.サプライチェーン全体において、環境負荷の低減と人権の尊重に努めます。
3.多様な人材が個々の力を発揮して成長できる企業風土を醸成し続けます。
社長メッセージ

創業以来、脈々と受け継がれてきた企業文化と、独創技術の研鑽をもって世界に歩を進めることにより、「東京計器ビジョン2030」達成を目指します。
これまで積み上げてきた顧客の信頼をもとに次の成長へ
前中期事業計画(2021‐2023年度。以下、前中計)が終了した今、私は改めて当社グループの資産について考えてみました。当社は、1896(明治29)年に、我が国初の計器工場「和田計器製作所」として、東京・小石川で圧力計の製作を開始して以来、128年もの長きにわたり、お客さまの厚い信頼に応えるために独創技術を生み出し、積み重ねてきました。その歴史は、飽くなき挑戦の軌跡であり、私たちのDNAそのものです。この歩みを通して数々のニッチトップ製品を生み出し、お客さまの社会課題を解決してきました。まさに、当社グループの独創技術は、お客さまとの長年にわたるお取り引きを通して深化した資本であると考えています。
当社グループは、持続的な成長を続けるための長期ビジョンとして2021年6月に「東京計器ビジョン2030」を策定しました。当社グループの製品は普段あまり目にする存在ではありませんが、インフラを支え、人々の暮らしの安全や安心に貢献しています。そして次の100年も社会から必要とされる企業でありたいと強く願っています。そのためには、急速に変化していく社会に合わせて自分たちも変化を生み出していかなくてはなりません。また、社会に貢献していくためにはそれなりの存在感を示していく必要もあります。これは私たちの事業そのものが成長していかなくては実現できないことです。そこで、この成長を具体化するために「東京計器ビジョン2030」を掲げました。
今回、前中計が終了したタイミングで、「東京計器ビジョン2030」で掲げたミッション・ビジョン・バリューの中のビジョンを「多様なグローバルニッチトップ事業でステークホルダーの発展を実現する」に変更しま
した。当社グループには多彩な独創技術を活かした、ニッチトップと言われる製品がいくつもあります。その中で、船舶のジャイロコンパス、オートパイロットといった航海機器はグローバルな展開をしているニッチトップなのですが、他の事業のほとんどは国内でのニッチトップです。今後当社グループの存在感を高めていくためには、国内だけのニッチトップではなかなか難しく、新たな事業の創出や事業領域の拡大に当たっては、グローバルな視点でのビジネスモデルの構築が欠かせません。そういう基本的な姿勢をもう一度従業員に意識づけしたいとの意図から見直すことにしました。
前中期事業計画の振り返り
「東京計器ビジョン2030」をもとに、当社グループでは3ヶ年ごとの中期経営計画で具体的な取り組みを設定しています。2024年3月期を最終年度とする前中計では、本ビジョンの達成に向けた基盤強化・基礎固めと成長ドライバーの発掘・絞込・育成のフェーズとして取り組んできましたが、売上高、営業利益はともに未達となりました。これは、新型コロナウイルス感染拡大による事業活動の停滞や、資源高、部材入手困難等によるコスト高騰が主な要因です。3ヶ年の売上計画合計に対する達成率は95.4%、営業利益合計は77.9%と、全社の営業利益の約半分を担う計画であった油空圧機器事業と防衛・通信機器事業が大きく下回った分を、好調
だった船舶港湾機器事業、流体機器事業で補填できませんでした。
一方、基本方針として掲げた「事業領域の拡大」「グローバル化の推進」「既存事業の継続的強化」については、「事業領域の拡大」では水素や宇宙といった成長ドライバーや農業機械分野での進展があり、「既存事業の
継続的強化」では各事業領域での新たな取り組みを通じて販売を拡大しました。しかしながら、「グローバル化の推進」については、コロナ禍で海外での拡販が進まなかったことや、油空圧事業においてシェア拡大を優先した価格競争をやめ、販売価格の適正化に方針転換したことなどから目立った進展はありませんでした。
新中期経営計画は成長に向けた飛躍のフェーズ
前中計が「東京計器ビジョン 2030」の基盤強化と基礎固めのフェーズだったことを受け、2024年5月に発表した新中期経営計画(2024‐2026 年度。以下、新中計)は、2030年度の目標達成に向けて成長の芽を確実に育て、収益化を図っていくフェーズと位置づけています。今回のフェーズでは、まだまだ成長ドライバーでの売上貢献度は低いのですが、ここで最終フェーズの飛躍に向けてしっかり準備を整えなければなりません。
また、前中計期間では利益の確保に課題が残ったことから、新中計では基本方針の 1 番目に「収益力の向上」を挙げ、その達成のために「事業領域の拡大」と「経営基盤の強化」を設定しています。収益力の向上に
当たっては、ROIC*による事業の分析を各事業部門で行い、それに基づいて重点施策を実施していきます。
経営層においては事業部門の活動をモニタリングし、事業ポートフォリオの分析を行い、効率的な改善活動を提言していきます。
株主還元については、安定的かつ継続的な配当を引き続き行っていく計画です。売上が増加する防衛事業では、部品購入費用の前払いや、新工場棟の建設費用など、先行投資が必要です。基本的な考え方として成長投資を優先しながら、株主還元を行っていきます。
*ROIC: Return On Invested Capital = 投下資本利益率。企業が事業活動のために投じた資金を使って、どれだけ利益を生み出したかを示す指標。
活気あふれる職場を目指した環境整備に注力
新中計の始まりに当たって、当社は健康経営宣言をしました。改めて従業員の健康についての考え方を整理し、健康経営の重点施策として、過重労働対策、健康管理、運動習慣、労働安全衛生の4つを設定しています。
実は、当社は 1926 年に日本で初めて健康保険組合を設立したという歴史があります。それ以前から従業員とその家族に対して医療費や冠婚葬祭費の給付を行うなど国の社会保障制度を先取りしてきた実績もあり、
1世紀もの間、従業員一人ひとりの心とからだの健康に向き合ってきました。
過重労働対策については、年休取得を国が目指す70%を目標にして取得しやすい環境づくりを進めたり、夏季休暇とゴールデンウィーク期間には全社一斉の長期休暇を設定したりするなど、心とからだのリフレッシュができるような取り組みを続けています。また、コロナ禍を契機に在宅勤務を導入し、オフィス勤務とのバランスを考えた働き方改革も取り入れています。運動習慣の提供に関しては、一定期間の歩数を競うゲーム性を持たせたウォーキングイベントを開催し、多数の従業員が楽しんで参加しています。
飽くなき挑戦で未来を創造
私は、2018年の社長就任以来、一貫して社内外でイノベーションを推進することを提唱してきました。イノベーションという言葉にはさまざまな捉え方がありますが、私が想定しているのは、20世紀前半を
代表する経済学者ヨーゼフ・シュンペーターのイノベーション理論です。つまり、イノベーションとは画期的なアイデアや技術を閃きや発明で生み出すことだけではなく、多岐にわたる既知、既出のものを対象とした
「新結合(新たな方法)」で新たな価値を創造することです。これは、当社グループが長年積み重ねてきた独創技術の新たな活用に向け、欠かすことのできない視点だと考えています。生産プロセスでのイノベーション
もあるし、品質管理にも販売管理にもあります。あるいは、日常のルーティン的な業務処理というものもイノベーションの対象になるわけです。そういう生産活動を対象としたイノベーションが、我々が想定している
イノベーションなのです。
当社グループでは、イノベーションを含めて挑戦意欲あふれる人材を育成する目的で2022年度に新たな人事制度を導入しました。新制度では挑戦意識が高い人は年齢に関係なく管理職に昇格できるような制度も取り入れています。また、事業の生産性を向上させていくためには人材の多様性を充実させていくべきだと考えています。
私自身の挑戦の一つをお話しします。30歳代の初め、油空圧機器事業の技術者だったときのことです。当時、技術・販売の提携をしていた米国の大手油圧機器メーカーと当社の間で開発戦略や事業展開などの考え方に
大きなギャップがありました。我々日本側は日本のお客さまのニーズに合った製品を開発したい、しかし米国側は効率性を考えてグローバルな汎用製品を展開したい。日本での両社の会議に私は先方の世話係も兼ねて出席していましたが、自分の上司を飛び越えて先方の副社長に直談判し、グローバルな製品を作るプロセスの中で共同開発することを提案したのです。最初は日本のローカルな「若僧」が何を言っているのだという感じでしたが、当社側のバックアップもあり共同開発に漕ぎつけ、言い出した自分は開発メンバーとして参画することになりました。それは無謀ともいえる私の挑戦でしたが、一担当者が言い出したことを会社が理解
し拾ってくれた、そんな風土を当社は持っていたわけです。挑戦には失敗がつきものです。私自身も何度も挑戦し、そして何度も失敗しています。失敗を恐れて何もしなければ成功は得られません。それを踏まえたうえで、挑戦する人の声を聞き前に進めていく当社の姿勢、風土を継承していきたいと考えています。
当社グループは、創業者から受け継いできた「飽くなき挑戦」の風土を堅持しながら、既存事業の強化とグローバルな新規事業の創出を進めていきます。これからも当社グループが社会から必要とされる企業であり
続けるために、グローバルな社会の安全と安心に幅広く貢献してまいりますので、皆さまからの一層のご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
代表取締役/社長執行役員

サステナビリティ担当役員メッセージ

当社グループは創業以来、長きにわたる事業活動の中で企業文化と独創技術を育み、安定した企業基盤を築いてきました。今年度のサステナビリティレポート
では、この「当社グループの基盤であり、事業推進の原動力となっている」企業文化と独創技術を生み出してきた事業プロセスについて振り返り、それらを「将来に
向けてどのようにつなげていくか」を主題として取り上げています。本レポートを通して、当社が「なぜ128 年にわたって存続できたのか」を、財務情報以外の観点
から整理し、「引き続き将来に向けて伝承していくべきもの」、そして「新たに獲得すべきもの」を再確認するプロセスをステークホルダーの皆様にご理解いただく一助となれば幸いです。
サステナビリティレポートの作成を通じて改めて確認できたのは、お客さまや取引先との信頼関係の積み重ねによって得られた社会関係資本と、お客さまの要求に応える製品を生み出す知的資本の好循環が、挑戦という風土を形成してきたのだということです。これにより、既存事業のプロセスの中で日常の小さな挑戦が自然に行われてきました。
これらの蓄積を「今後の成長にいかに活用していくか」が、当社グループのマテリアリティ(重要課題)の取り組みにおける重要な鍵となります。このマテリアリティは当社に限らず、市場やお客さまの課題でもあります。これらの課題を解決し続けるために、当社グループが保有する財務資本や非財務資本を有効に活用し、企業価値のさらなる向上を目指していきます。
特に、近年の過去に類を見ない局所的な豪雨や記録的な高温、干ばつなどは、従来のインフラ設備では対応しきれないレベルまで達しています。そのため、「環境
配慮型社会の実現」に向けた脱炭素の取り組みを引き続き推進していくことはもちろん、気候変動に適応する「社会課題を解決する商品の提供」も進める必要があり
ます。
こうした商品の提供は、現場から生まれた小さなアイデアが大きな社会課題の解決につながることもあり、本レポートでは商品開発担当ではない部署の従業員が自ら手を挙げて新たな事業の創出を進める活動事例も紹介しています。
当社グループは、革新的な技術や発想と現場からの改善を両輪として全社一丸となって解決すべき課題を一つずつ克服し、持続可能な成長を目指します。
取締役執行役員 サステナビリティ推進担当
鈴木 由起彦
サステナビリティ推進体制
サステナビリティ推進室は、サステナビリティ経営に係る諸施策を当社グループの中心となって企画、推進します。
サステナビリティ委員会は、社長執行役員を委員長として、社内取締役、各担当執行役員から委員を選出しています。サステナビリティ経営に係る方針や施策などを審議、共有し、決定事項を遅滞なくグループ全体で実行するための会議体として機能します。また経営会議、取締役会に重要施策の起案や進捗等を報告します。