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昨年12月26日、東京計器は、国土交通省、一般財団法人日本海事協会、日本郵船株式会社、株式会社MTI、株式会社日本海洋科学、日本無線株式会社、古野電気株式会社と共同で、「船舶の衝突リスク判断と自律操船に関する研究」の一部内容をマスコミに公開しました。この研究開発は、国土交通省の「先進船舶・造船技術研究開発費補助事業(先進船舶技術研究開発)」の支援対象事業として採択されています。 現在、提案者である日本郵船と当社を含む6社の共同によって、船舶の衝突リスク判断を容易にする機能、陸上からの遠隔操船、AR※技術を利用した航海支援ツールの研究開発が進められています。当日は、これらの研究のうち、船舶の衝突リスク判断に関する研究を紹介しました。
※ AR(Augmented Reality:拡張現実) 現実世界の物事から得られる情報に対してコンピュータなどを用い多様な情報を重ねて表示すること。
自律操船と人間の危険判断能力の関係
現在、自動車の世界では自動運転に関する研究開発が進められており、障害物を感知して衝突回避を行う衝突被害軽減ブレーキや、前の車両との車間距離を保ちながら一定速度で自動走行するアダプティブ・クルーズ・コントロール(Adaptive Cruise Control)機能などが登場しています。一方、大型船舶には設定した方位に向けて自動的に舵を操作するオートパイロット(自動操舵装置)が装備されており、オートパイロットとECDIS(電子海図情報表示装置)を組み合わせたTCS(Track Control System)により、ECDIS上で設定した航路に追従させる機能が実現されています。また、安全支援機能としては、航海用レーダーの物標追尾機能やAIS(船舶自動識別装置)により他船の動向を把握し、接近警報を鳴らす仕組みがあります。またECDISは自船位置を常に電子海図上に表示し、海図の水深データと照らし合わせて、座礁の恐れがある場合は警報を発する機能を備えています。 しかし、衝突回避などの自動制御は行いません。航路上に種類や速度が異なるさまざまな船舶が混在する海上交通路において、機械が他船の動向を判断するのが難しいからです。たとえば、狭い航路に多数の船舶が輻輳する場合、自船と同じ針路に向かう同航船や、自船に近づくように向かう反航船、自船の船首や船尾を航過する横切り船が、比較的近い距離で航行します。レーダーやECDISではこれら船舶を一律に危険対象として判定するため、警報が鳴りっぱなしになってしまいます。そんな時、船長や航海士は自船を取り巻く多数の船舶を衝突危険度に応じてランク分けし、優先度の高い順に衝突回避行動をとります。こうした人間の経験や感覚に基づく危険予測や判断能力は安全航海に絶対不可欠な要素です。自律航行船を実現するためには、この熟練者の知見をいかにして機械で形式化して再現するかが重要な鍵を握っているのです。
操船者のリスク判断を数値化指標とする試み
「船舶の衝突リスク判断と自律操船に関する研究」における「衝突リスク判断方式の研究開発」では、ベテラン船長や航海士がどのような状況でどのような判断を行うのかというデータに基づいた、衝突リスク判断に関する危険度指標の研究開発を進めています。そこで活躍しているのが、株式会社日本海洋科学が所有する大型操船シミュレータです。これは飛行機の操縦訓練に使用するフライトシミュレータの船舶版とも言うべき設備で、実際のブリッジ(船橋)と同じ構造、航海機器も実物が装備されており、窓の外に広がる円筒形大型スクリーンには4K解像度のプロジェクタによるリアルなシミュレーション映像が映し出されます。航海士の操船訓練やBRM/BTM(Bridge Resource/Team Management)訓練などに使用されていますが、本研究では船長や航海士にご協力いただき、さまざまな運航条件を再現する中で船長がどのような基準で危険を予測・判断し、どのような回避措置を取ったかというプロセスのデータ収集に活用されています。シミュレータの実験終了後は被験者に聴き取り調査を行い、どのような理由に基づいて危険を判断したかという人間の肌感覚に基づいた要素を加味することで、より操船者のリスク判断に近い数値化指標の完成を目指しています。 東京計器は、オートパイロットの分野で培った自動操舵と、レーダーやECDISの分野で培った航行支援に関する先進技術を本研究に活かし、日本の海運業界と舶用機器業界のさらなる成長と、航海の安全に向けた将来製品の開発に挑戦しています。これからの研究成果にどうぞご期待ください。
Views No.124 PDF版(約3.8MB)
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