本文へスキップします。

ページタイトル

東京湾海上交通センター

コンテンツ

安全でスムーズな船舶交通を守るために。
東京湾海上交通センター

私たちが海上保安庁の業務をイメージする時、まず思い浮かべるのは不審船の取り締まりや海難救助活動ではないでしょうか。これは「警備救難業務」と呼ばれるものですが、海上保安庁にはその他にも重要なミッションがたくさんあります。今回は、その中の「海上交通業務」に焦点を当て、東京湾を例に船舶交通の安全がどのようにして守られているのかをお伝えいたします。

東京湾は多数の船舶が行き交う世界有数の過密海域

明治以降の文明開化の象徴とも言える横浜。その歴史が色濃く残る馬車道通りの一角に東京湾海上交通センターがあります。
ここは東京湾を航行する船舶の交通安全のため、必要な情報提供や航行管制を行う要衝。1日あたり約500隻の船舶が行き交う東京湾は世界有数の海上交通路ですが、浦賀水道航路が設定されている海域幅6.5kmのうち、危険な浅瀬等があるため大型船舶が通航できる航路幅は1.4kmしかありません。しかも潮流も速いことから航海の難所とも言われています。海難を防止するためには船舶への適切な情報提供と航行管制が不可欠であり、東京湾海上交通センターはその重責を一手に担っています。
同センターは1977年に観音埼(神奈川県横須賀市)に設置され、千葉、東京、横浜、川崎の4つの港に設置された港内交通管制室と連携しながら41年間に亘って東京湾の安全を見守り続けてきましたが、高度化する管制ニーズに対応するために4つの港内管制室の業務を統合し、2018年1月から横浜市中区にある第三管区海上保安本部と同じ庁舎に移転して新しい運用が始まっています。業務の一元化によって航路と港の状況をシームレスに把握できるようになり、より的確で円滑な管制が行えるようになりました。

24時間体制での管制業務を行う東京湾海上交通センター

東京湾海上交通センターの運用管制室は、約90人の運用管制官が4班に分かれ、24時間体制で管制業務にあたっています。
航路が指定されているとは言え、船舶は陸上の道路のように整然と並んで航行しているわけではありません。航路には大型タンカーや小型漁船、プレジャーボートやヨットなどが混在しており、特に朝4~8時は入湾、夕方16~20時は出湾の船舶でラッシュとなるため、運用管制官は一瞬たりとも気が抜けません。

運用管制室には湾内の状況を映す大型モニターがずらりと並んでおり、現地の状況が確認できるようになっています。管制官はこのカメラ映像と、レーダー運用装置のディスプレイに映し出される船舶の位置情報を基に船舶が管制計画通りに安全に航行しているかを確認し、VHF無線通信により、「情報」「警告」「勧告」「指示」等を行います。たとえば、「右舷方向から船が接近しています」と情報提供し、それでも近づいているようなら警告、さらには「安全な間隔を確保し接近を回避してください」と勧告を出します。
これらはVTS(Vessel Traffic Service: 船舶通航業務)と呼ばれており、世界各国のVTS 機関が共通して実施する基本的な業務です。

防災対策の強化に向けた取り組み

東京湾海上交通センターの一元化にあたって重視したのは非常災害時の対応です。近い将来に発生の可能性があると言われる南海トラフ巨大地震が起きると、東京湾にも津波被害が発生する恐れがあります。その際、港に停泊中の船舶が一斉に港外に避難すると、湾内は錨泊※した船舶が密集して大変危険な状態になります。
東京湾海上交通センターにおける災害発生時の措置は、船舶に合わせて危険度を想定し、優先順位をつけて安全な錨泊エリアや湾外に順次避難させるのが基本です。そのためには、東京湾全域をまとめて措置する必要があり、従来の東京湾海上交通センターと4つの港内交通管制室を統合して一元化した理由もここにあります。
日本の海上物流の大動脈となる東京湾の安全を守ることは東京湾海上交通センターの使命です。「管制システムの高度化で船舶の動静把握は格段に向上しました。しかし、運用管制官一人ひとりが的確に状況を判断し、正しく操船者に伝えることが重要です。最終的には人と人とのコミュニケーションが大切になります。事案が起きてから対処するのではなく、事案を起こさないようにするのが私たちの仕事です」。笑顔で語ってくれた若い管制官の言葉が印象に残りました。

※錨泊:錨をおろして船舶を停泊させること。